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欧洲・アイスランド旅行記(1)
瀬木 三雄
1
1東北大学
pp.44-49
発行日 1957年10月1日
Published Date 1957/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201352
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1,羽田をあとに
昭和32年6月29日夜,羽田の空港は小雨もよいの空.暫くの日本とのお別れと思うと,いくらかの感懐が,胸にせまる.欧米への外国旅行は三度目で,旅には慣れた気もするし,とくべつの好奇心もない代りに不安もないが,日本をぬけ出る不思議な嬉しさを一寸ばかり感ずる.2日後にはあの美しいスイスの山河に接し得られるよろこび,ゴミゴミ,ガチヤガチヤしたうすぎたない日本の街と人いきれとを,しばし逃避し得られるよろこび,そして,数年来の宿望が達せられてアイスランドに行き得る——夢の実現の期待に——いろんな混り合つた感じを抱き乍ら,SAS機の中に入る.入つた途端に感ずる外国のにおい.ああもうこの中は外国だ! 席に手さげを置いて,もう一度入口に出ようとするともう出発準備,席にかけて下さいという.9時少しすぎ,機は意を決した如く浮上,間もなく限下に銀座の廻転するネオンの広告がみえる.それもつかの間,機は南方海上に出たものの如く,はるかに点滅する日本の残りの灯一つ二つ.飛行機で日本を出るのは,私として,これがはじめてであるだけ,このあつけない出国が少し物足りない感がした.
月も星もない暗がりの海上飛行.30日午前4時半,まだ暗いマニラに着く.明るくなりかけた飛行場を発つて,雲海の南支那海を西に,10時バンコツク着陸.仲々立派な飛行場だ.
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