講座
妊娠と眼
隅田 能文
1
1慶応病院産婦人科
pp.56-60
発行日 1956年12月1日
Published Date 1956/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201177
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妊娠時或は分娩,産褥時に視力障害又は失明をすることがあるのは,古くから一般に知られていたが,検眼鏡による眼底検査法が発達するにつれて,斯様な視力障害は眼底の各種変化に原因する症状であることが明らかになつた.この様な眼底の変化像は妊娠悪阻時を別として,晩期妊娠中毒症の時に,著明に現われて来るので,妊娠中毒症と関係があることがわかつて来た.
現在妊娠中毒症の本態に関しては,未だ決定的な学説はなくて,色々の学説が唱えられているけれども,身体循環系の細小動脈の機能的,器質的変化が,中毒症発症と重要な関聯性があることは,何れの学説でも一致した考えである.またこれ等細小動脈の変化は脳循環系にも現われて,子癇或は子癇前症に伴う各種脳症状の発生原因にもなる.其れ故脳細小動脉の性状を知ることは,妊娠中毒症の予防,治療に有意義な指示を与えることになる.併し脳血管は頭蓋内にあつて,外部より之を検査することは不可能であるが,唯脳血管の一枝である眼動脈より分枝した綱膜中心動脈が,検眼鏡的に視診し得るので,この血管の性状を検索して脳血管の性状を類推する様になつた.それ故"眼は脳の窓である"と云う諺の如く,眼底網膜血管特に網膜中心動脈及び其の分枝を文字通り"覗く"ことが重要視される様になつた.
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