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歌舞伎の樂屋
pp.64-66
発行日 1955年1月1日
Published Date 1955/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200779
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編輯部からは正月興行の演し物について何か書くようにという注文であつたが,一月興行の番組は未だ決つてはいないし,恒例として「曾我の対面」が出そうだとは思つても,旧いしきたりの劣えた今日の歌舞伎の世界では実のところ何が飛び出すかわからないので新年号のことでもあり,何か,歌舞伎そのものについてまとめておくこととした.
歌舞伎の世界は伝統の世界である.伝統の世界すなわち封建主義的な世界という意味だとすると関係者から叱られるかもしれないがとにかく歌舞伎の世界には20世紀も半ばを過ぎたという今日から見るとずいぶん古いしきたりの多い世界である.それは歌舞伎芝居を上演する劇場の楽屋をのぞいて見ればすでにわかることである.そこで先ず楽屋の入口に立つて見ることにしよう.開幕前の2時間ぐらいは楽屋の入口が最も混雑する時間である.そこで最初に気がつくことは楽屋口を通つて入つてくる舞台関係者の履き物のぬぎ方である.もつと正確に言えば履き物のぬぎ場所である.ある者は土間でぬぎ,ある者は踏み石の上でぬぐ,さらに一歩進むと楽屋の廊下を草履をはいて歩くものあり,草履をはかずに歩くものありといつた有様である.いうまでもなくすべてこれ楽屋裏での位の上下によつているのである.楽屋口には必ず頭取部屋というものがある.
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