主張
趣味と娯樂
pp.5
発行日 1953年7月10日
Published Date 1953/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200541
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趣味の手帳,趣味の本だな,趣味の献立,趣味の服装,等々数えあげれば際限なく,生活のあらゆる面を,趣味の一色でぬりつぶすことも出来ようというもの.更に,入学試験に採用試験に,最近大流行のいわゆる面接というのがあつて,それがまたきまつたように一問はきまつて「あなたの趣味はなんですか」と,いうのである.回答者もなれたもので,「赤い本」だの「パチンコ」などとは決していわない.「スポーツ」「音樂」「讀書」などと,至つてあたりまえな,しかも非常に抽象的な返事をしているのであるが,質問者はそれで満足しているらしいのでこれも形式以外何ものでもないようである.そんな位なら,改つてきかないで「好きなものは何か」位にさつと輕くきく方が,利口のように思える.ひどいのになると,他人の言葉尻をとらえたり,あげあしとつたりする人のことを,「あれはあの人の趣味だよ」と片づける.こうなると趣味なるものもいゝ迷わくで,趣味のオーソドツクスな定義が必要になつて来そうにも思える.
もともと「おもむきのある味のよさ」又は「味のあるおもむき」という言い方で,趣味の意味をピタリと表現しているので,これ以上言葉の使いようもないと思うのである.そして,原則として常に「よい」場合をいうので,いわゆる「惡趣味」というような言葉などはあり得ないので,趣味にも「道」があるとすればあきらかに「邪道」に属する類である.
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