今月の言葉
秋を迎えて想う
pp.5
発行日 1953年10月1日
Published Date 1953/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200449
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朝風のさやけさ——それをシミジミと嬉しく感じるのは秋にまさる時はないであろう.朝まだき靜かに床をはなれ,立つて雨戸をくりひろげると,風というほどの感じはなくても,なにかスーツとした爽かさが胸の中,室の中に浸みこんでくる思わずこの冷気を胸いつぱいに吸いこんで,履物をひつかけて戸外に温る.尺地はまだねむつているのに,大空はもうすでに睲めて,朝の光が青々と無限の彼方まで満ちている.
このさわやかな,清らかな,凉しい秋を,私たちは今また迎え得たのである.思えば,今年の上⅔の時日は,もうすでに過去となつて流れ去つてしまつた.後に残された時日中は,とかくだれがちになつていた心身に締りをつけなおしましよう.読書をするのにも,思索をするのにも,何か仕裏に精進するのにも尤も好適な季節を迎えて,残り少なになつたこの年を何とか無意義に過させないという決心を茲に新たにしたいと思う.
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