随筆
北海道の助産婦
竹村 マヤ
pp.44-45
発行日 1953年2月1日
Published Date 1953/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200283
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零下30度40度と降だる寒さと戰う北海道の助産婦。特に夜更けの雪の中を,迎えの馬橇に身をゆだねて,蒼白き月光の下に浮き出された助産婦の姿は雄々しくもあり,又神のごとき心地がする。天塩の国の名寄と云う町からほど近いところに,美深(アイヌ語でピウカといい,小石磧の意である)と云う村があつて,此所に開業して居られる高野しづかさんが,ある時染々とこんなことを仰しやつた。『零下30度,40度と云えば,息も凍るかと思うばかりであるが,この凛烈たる寒気の中を,迎えの橇に乘つてしやんしやんと,鈴の音も冴えかえる小夜更けに,二里三里と人里離れた山道を,月光を浴びながら,産家に行く心地は何とも云えぬ莊嚴なもので,丁度自分が夢の国か,お伽の国のお姫様のような心地がして,助産婦なればこそと感謝の念がわいて,眞に幸福な自分を見出す』と。私はこれを聽くと直ちに次の樣な短歌を差上げたのであつた。
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