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はじめに
日本の新生児集中治療室(neonatal intensive care unit:NICU)における心理士の活動は,1990年代から萌芽がみられる.1997年にNICUで活動する臨床心理士6名が集まり,周産期心理士ネットワークが発足した.2010年には厚生労働省の「周産期医療の体制構築に係る指針」において,周産期母子センターには「臨床心理士等の臨床心理技術者を配置すること」が明記され,2023年3月時点で周産期心理士ネットワークに登録している臨床心理士または公認心理師の人数は240人を超えている1).
私が所属する東京都立大塚病院は2009年10月に総合周産期母子医療センターとして認定された2).産科病棟には母体・胎児集中治療室(maternal fetal intensive care unit:MFICU)を有しており,妊娠中から新生児科医が,早期出生した場合のリスクを説明する産前訪問を行っている.また,周産期担当の心理士が定期的にMFICU・産科病棟に訪問し,児がNICU・新生児回復室(growing care unit:GCU)に入院した場合はそのまま新生児科病棟でも担当するなど切れ目ない支援を心がけている.NICUにおけるこころのケアのニーズは高まっており,周産期心理士として活動する心理職の数も増えているが,実際にNICUにいる心理士がどのように活動しているのかは他職種からは少し見えにくいのではないだろうか.心理士の活動自体が数値化により明示することが難しく,すぐには結果や効果を示しにくいことも,そうした状況の一因であると考えている.
NICUにいる心理士がNICUで働く医師や看護師,リハビリテーションの療法士と最も異なる点は,赤ちゃんに直接触れないことである.橋本3)は,聖マリアンナ医科大学の堀内勁医師が心理士を,「医者が聴診器を使うように(心理士は)自分の“こころ”を使って仕事をする」と表したエピソードを紹介している.実際に,心理士は自分のこころとからだを使って仕事をしている.心理士は赤ちゃんに直接触れることはほとんどない.そのため,自分のこころやからだ,五感を通して赤ちゃんや家族を感じ,赤ちゃんや家族の気持ちに思いを寄せ,心理士自身が感じることを真摯に受け止める.まさに,心理士自身の“こころ”を使いながらNICUに「いる」のである.
こころのケアについて文字にすることは,明示化ができる一方,行間から零れ落ちてしまう思いや語りもある.本稿では私自身の経験や感覚を手掛かりにNICUにいる心理士について言葉にしていきたいと思う.
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