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慢性疼痛(3か月以上続く痛みであり,ICD-11で初めて疾病として分類された)で悩んでいる国民は多く,疫学調査からは日本人成人の約22%が慢性疼痛を有していると報告されています.慢性疼痛は,器質的な要因(組織損傷など)だけでなく,心理的な要因,および社会的な要因が複雑にかかわり合っている病態であると考えられています.そのため,慢性疼痛は「生物・医学モデル」ではなく「生物・心理・社会モデル」と捉える必要があります.多要因が関与しているため,慢性疼痛の評価・診断,そして治療には多職種が関与する集学的アプローチが推奨されています.特に治療においては,教育や心理療法を加えた運動療法(集学的運動療法)が,ガイドラインなどで強く推奨されています.
私事になりますが,2021年から福島県立医科大学の3つ目の学部である保健科学部の初代学部長として,理学療法士,作業療法士,診療放射線技師,および臨床検査技師の養成に携わっています.理学療法学科と作業療法学科の学生に対しては,「リハビリテーション概論」,「リハビリテーション医学」,「整形外科学」などの講義を行っています.その中で,改めて感じているのが,リハビリテーション医療における障害の捉え方と慢性疼痛診療の類似性です.私は講義の中で,ICF(国際生活機能分類)の重要性やICIDH(国際障害分類)との違いを何度も話します.ICIDHでは障害に影響する因子は疾病のみですが,ICFでは健康状態,環境因子,および個人因子の3つがあります.すなわち,ICFは相互作用モデル(両方向矢印で示されます)であり,障害を「生物・心理・社会モデル」で捉えています.私がこの考えを学んだのは,整形外科医として慢性疼痛の治療(手術など)を行ってきて,思うような改善が得られない患者さんを前にして,どのように患者さんの病態を考え,どのように治療すればよいのかに悩んだ時でした.医学生の時から,症状の原因(器質的異常)を探して,その原因をどう治療するかを学び(「生物・医学モデル」),医師になってからもそれを実践していきます.多くの診療科はその考え方のままであり,それで多くの患者さんを治療できていると思います.しかし,患者さんを「生物・心理・社会モデル」で捉えることで,初めて病態を理解し,有効な治療法に結びつけることができることも少なくありません(特に慢性疼痛診療ではそう感じています).
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