巻頭言
計測するということ
緒方 徹
1
1東京大学医学部リハビリテーション医学講座
pp.705
発行日 2023年7月10日
Published Date 2023/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552202867
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近年の情報技術の進歩は目覚ましいものがあり,リハビリテーション分野でも人工知能への関心が高まっている.もう一つ,世間で耳にする話題が「量子コンピュータ」である.そもそも手元のノートパソコンでさえ動作原理を理解していない筆者にとって,なぜ量子がコンピュータに利用できるのか皆目見当がつかない.ただ,「量子」という言葉は学生の頃教わった「不確定性原理」を想起させる.これは粒子を観測する際に,場所(座標)を正確に測定しようとすると対象の速度(運動量)が不正確になる,というもので観察行為そのものが対象の見え方に影響してしまう現象の象徴的な事例として記憶に残っている.
粒子に比べるとだいぶ大きさのスケールは異なるが,リハビリテーションの診療や研究の場面でもこの観察者と計測結果の問題は共通しているようである.歩行を例にとると,3次元動作解析の精度を高めるためにマーカーと皮膚がずれないボディフィットスーツを着て実験室で10m歩いてもらうとしたら,その特殊な状況でみられる歩容がその人の真の歩容といえるか疑問である.逆に,近年では慣性センサーひとつを身に着けることで1か月にわたって活動を記録することができる.これは実生活を捉えたデータであり,歩数などはある程度計測できるが,歩容の詳しい評価は難しい.このように生活の中で具現化される体の機能を完全に数値化する絶対の方法というのはない,といって差し支えないだろう.
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