Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
志賀直哉の『流行感冒』—暴君的な性格特性
高橋 正雄
1
1筑波大学
pp.1272
発行日 2022年10月10日
Published Date 2022/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552202651
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大正8年に志賀直哉が発表した『流行感冒』(新潮社)には,「流行性の感冒が我孫子の町にもはやって来た」という一文があるように,直哉自身を思わせる主人公が住む千葉県・我孫子でスペイン風邪が流行した時の様子が描かれているが,そこで顕著なのは主人公の自己中心性・自己肯定性である.
この主人公は,最初の子供に死なれたこともあって,幼な児の左枝子の健康には神経質なほど注意しており,自分の家に感染症を入れないために,妻や二人の女中には小学校の運動会にも出掛けないよう命じていた.主人公は,女中を町へ使いにやる時にも,「愚図々々店先で話し込んだりせぬように」と喧しく言っていたのである.
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