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「介助犬」は肢体不自由者の自立と社会参加促進を目的に訓練され,身体障害者補助犬法の元で認定されペアとなった犬をいいます.落としたものを拾って渡す,手が届かないものを持ってくる,転倒,大切なものを落として拾えない,電動車椅子のバッテリーが上がった! 車椅子の車輪がはまって動けない!等々の緊急事態に,携帯電話を探して手元まで持ってきてくれることで緊急時の連絡手段を確保できます.介助犬は障害者にとって安心できる見守り効果をもたらします.その結果,一人で外出しても大丈夫と思えるようになり,外出頻度が増え,新しい場所でも何かあってもこの子がいてくれるから大丈夫と思えるようになります.個々のニーズに合わせてリハビリテーション専門職が訓練事業者と連携をしてニーズに合わせた訓練を行い,訓練事業者から無償で貸与します.介助犬育成は多くのボランティアと個人や団体からのご寄付で成り立っています.また,補助犬法に基づいた認定を得ることは介助犬を同伴して社会参加をする使命感を得ることとなります.
銀行マンだったKさんはプールの事故で頸髄損傷になりました.うつと離婚を経て男手一つで3人の息子を育て上げた頑張り屋です.上肢障害がある彼は,自らヘルパーステーションを設立,自立生活を作り上げました.日中はヘルパーをフルに利用して事業所の長として安定経営,事業拡大を着々と成功していきました.悩みは,夜間,布団の上げ下げができず体温調節が困難なことと,セキュリティの心配でした.「目の前で泥棒されても手も足も出ねーじゃん,そんな悔しいことはない.犬なら安心だ.必要な時すぐ起きてそれ以外寝ているのも素晴らしい!」と介助犬を希望されました.Kさんがある日の講演でお話しされました.「僕は重度障害者です.だからこそ,3Kが重要です.健康,教育,教養の3Kです.健康.これはみなさんのような健常者以上に安定した心身の状態が必要で健康はとても大切です.教育,これは『きょう いくところがある』ってことです.教養は『きょう ようがある』ってことです.親父ギャグですよね〜」と聴衆を笑わせました.介助犬が来る前から事業者の代表として忙しくしていたKさんでも外出は負担だったそうです.外に行けば必ずいろいろな困難があり心身ともに疲れる.人間,「行かなければ」,「しなければ」ということがなければ動かないもの.犬は毎日規則正しく,ごはん! 散歩!! と愛らしく飼い主に要求します.ご飯あげなくちゃ,お散歩に連れて行ってあげなくては,と行く場所,行く用事ができます.外出してみれば広い世界があり,「介助犬だ!」と話しかけてくる人に出会います.「障害者」は『介助犬と一緒にいるかっこいいおじさん』となり,周囲からも話しかけやすい存在になり毎日2度以上外出することがKさんの日常になりました.
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