Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
デモクリトスの断片—リハビリテーション的な発想の原点
高橋 正雄
1
1筑波大学
pp.896
発行日 2022年7月10日
Published Date 2022/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552202569
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すべての物質はそれ以上分割できない原子からなると唱えた古代ギリシアの哲学者デモクリトス(前460頃〜前370頃)は,足るを知るという一般的には東洋的と考えられている哲理を説いた人でもある.デモクリトスについては,まとまった著作が残されていないため,さまざまな形で残っている断片からその考えを推し量るしかないが,残された数少ない断片(廣川洋一『ソクラテス以前の哲学者』,講談社)からは,彼がしきりに足るを知ることの重要性を説いていた様子がうかがえる.
例えば,「度を過ごして欲求することは,大人にではなく,まさに小児に属することである」という言葉があるかと思えば,「かしこにあるものを求めないで,人は,現にここにあるもので心楽しく過ごすべき」という文章も残されている.また,「愚かな者たちは,現にないものを切望し,現にあるもの,それもとうの昔に過ぎ去ったものよりいっそう有益なものであるのに,その現にあるものを打ち捨てて構わない」と言うかと思えば,「現にもっていないものについてくよくよせずに,むしろもっているもので心楽しく過ごす人は,思慮ある人である」という言葉もあるほか,次のようにも述べている.「自分に可能なものにのみ心を配って,現にあるものに満足し,羨まれたり称賞されたりしている人びとのことなどは少しも気に止めず,また心にかけてはならない」,「財産があり,他の人びとから幸せ者よと呼ばれている人たちに感嘆し,そういう人たちのことをのべつに気にかける者は,絶えず新機軸を出すよう強いられ,欲望のために,法律が禁じているもののうちでも,取り返しのつかぬことに身を投ずるよう強いられるにいたる」.
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