書評
奈良 勲,高橋哲也,淺井 仁,森山英樹 編「移動と歩行—生命とリハビリテーションの根源となるミクロ・マクロ的視座から」
影近 謙治
1
1富山県リハビリテーション病院・こども支援センター
pp.534
発行日 2020年6月10日
Published Date 2020/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201964
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
本書の「移動と歩行」との題名から,歩行機能不全に対するリハビリテーション医療のアプローチに関する内容を想像して読んでみた.ところが,本書は“移動”の概念について単に物理的移動を意味するのではなく,「移動と歩行」の終局的課題を社会参加に視点を置いたものであった.これまで歩行に関する書籍はたくさん上梓されているが,その多くは疾患別に歩行分析・歩行練習法を紹介するものであった.本書は従来の歩行分析・評価や疾患別の歩行機能不全に対する医学的リハビリテーション関連の著書とは異なり,人間の移動の根源と本質をその生命に発し,行動圏の拡大をキーポイントとして社会的リハビリテーションを含む広い視座からとらえており,従来,存在しなかった斬新な書籍である.
編集者らは,“移動”という現象を細胞・組織・器官などの総合システムとしてとらえ,個人の「移動圏」を定義している.「移動圏」とは(1)病院内,(2)外来通院,(3)市町村内,(4)市町村内〜県内,(5)市町村内〜国内,(6)海外への移動の6段階に分類したものである.また,生活範囲の拡大とその移動手段について,各疾患別の移動圏の拡大が人間らしい社会参加には欠かせないと考察し,代表疾患別に各ステージにおけるリハビリテーションのアプローチをわかりやすく解説している.
Copyright © 2020, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.