Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「生きるのに理由はいるの?〜津久井やまゆり園事件〜」—生きる理由は,生きる過程においてせり上がってくる
二通 諭
1
1札幌学院大学
pp.287
発行日 2020年3月10日
Published Date 2020/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201908
- 有料閲覧
- 文献概要
- 参考文献
2016年7月26日深夜,神奈川県相模原市の障害者入所施設・津久井やまゆり園で,19人の障害者が殺害され,27人の障害者・職員が負傷.「生きるのに理由はいるの?〜津久井やまゆり園事件〜」(監督/澤則雄)のサブタイトルにある事件のことだ.犯人の植松聖は,同年2月までここの職員であった.植松は,重度重複障害者に「心失者」という造語を当て,不幸を生み出すだけの「心失者」を殺害することは,世界平和のためだと強弁.障害者を殺害してもユダヤ人殺害には反対と宣い,ナチス・ヒトラーとの相違も強調している.
植松は,浴室で溺れかけた入所者を救命したときに,家族に喜ばれなかったというエピソードをもって,障害者抹殺を是とする「持論」を正当化する.家族が思っていても実行できないことを自分が代行したのだ,という筋立てである.仮に家族の対応に「問題」があったとしても,それもまた社会的な矛盾に規定された「障害者問題」の一つであり,社会変革こそ主要な課題となる.抹殺やバッシングではなく,だれもが生きやすい社会を創ることによって障害者問題も漸次解決に向かう.植松には,社会科学的な視点が欠けている.
Copyright © 2020, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.