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はじめに
これまでの摂食嚥下リハビリテーションは脳血管障害を中心に,摂食嚥下機能評価のゴールドスタンダードである,嚥下造影検査,嚥下内視鏡検査の結果をアウトカムとして臨床,研究,教育が発展してきた.しかし,人生100年時代を迎え,脳血管障害に罹患しなくても,摂食嚥下機能障害を生じる高齢者が増加してきている.これは摂食嚥下機能の加齢による低下であり,これを完全に除くことはできないが,低下を予防し摂食嚥下機能障害の発症を遅らせることはできると考える.これらは地域で行われている介護予防の口腔機能向上サービスにおいて行われてきたが,十分な効果を得るには至っていない.しかし2018年度の診療報酬改定で口腔機能低下症が病名に収載されたこと,ささいな口のトラブルとされるオーラルフレイルに関する研究成果が公開され,口腔機能の客観的評価とそれに基づく口腔機能管理が地域や歯科医療の中に徐々に浸透してきていることから,今後摂食嚥下リハビリテーション普及への効果も期待されている.
オーラルフレイルや口腔機能低下症の判定,診断のために行われる口腔機能の客観評価はこれまでの摂食嚥下リハビリテーションでは,補助的な評価として経口摂取の可否や食形態の決定に際し行われてきた.しかし,これら客観的評価が歯科診療の中に位置づけられ,摂食嚥下障害患者において実施されていくことによって,経口摂取の可否や食形態の決定に積極的に用いられ,多くの知見を創出していく可能性がある.また,オーラルフレイルは2018年度から本格的に始まったフレイル対策のなかで注目されており,地域包括ケアシステムのなかに浸透しつつある.このように歯科を中心に摂食嚥下障害に対する予防的対応がこれまで以上に推進されていくことは,摂食嚥下機能の加齢による低下を予防するうえできわめて大きな力になると考える.
さらに日本では2012年の時点で認知症患者が462万人と報告され,それ以降も急増し2025年には700万人に達すると推計されている.すべての認知症患者が摂食嚥下障害を発症するわけではないが,認知機能の低下が重度になるほど摂食嚥下機能障害の程度も重度化していくことは明らかであり,また認知症患者の摂食機能障害は先行期の問題も大きく,これらについて対応していくことも,今後の摂食嚥下リハビリテーションの普及,発展に欠くことはできない.
そこで本稿では,歯科が中心でその普及,啓発を行っているオーラルフレイルと口腔機能低下症について解説し,摂食嚥下リハビリテーションとの関係について検討するとともに,認知症患者や終末期にある高齢者の摂食嚥下障害に対応するうえで不可欠な先行期の摂食嚥下機能障害の評価について,最近の知見をもとに考えてみたい.
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