Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
千家元麿の『霰』—戦前の精神科病院批判
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.286
発行日 2019年3月10日
Published Date 2019/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201591
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千家元麿が1931(昭和6)年に発表した詩集『霰』(『千家元麿全集上巻』,彌生書房)には,千家が1929(昭和4)年に入院した松沢病院で出会った患者を描いた詩が収められているが,それらの詩には,当時の精神医療に対する批判が含まれている.
たとえば,『葉桜』は,「刈り込みのすんだ人が出て来て 葉桜の下を歩いてゐる 大抵坊主頭に刈ってゐる 刈り込んでもふけを落しても洗ってもくれない 葉桜の下へ行って毛を払ひ落す」という一見牧歌的な詩で,当時の入院患者の多くは,坊主刈りにされていたらしいことがわかる.しかし,入院患者は坊主頭に刈られるだけで,ふけを落としてもらうわけでも,頭を洗ってもらえるわけでもないため,患者は葉桜の下へ行って自分で毛を払い落とさなければならないという情景を,この詩は描いているのである.
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