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はじめに—解決すべき問題とは
随意運動は脊髄と脳幹の運動ニューロン(下位運動ニューロン)を中枢神経系が制御することで行われる.1つの下位運動ニューロンとその支配する筋線維からなる構成体は運動単位とよばれる.運動単位は運動単位活動の頻度と動員される運動単位の総数により制御されており,すべての運動現象をつかさどる効果器(effector)である.神経・筋疾患(neuromuscular disease)とはこの運動単位(motor-unit)そのものが変性することで,進行性の運動機能障害と筋萎縮を引き起こす重篤な疾患群をいう.この代表疾患は,脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy;SMA),球脊髄性筋萎縮症(spinal and bulbar muscular atrophy;SBMA),筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis;ALS),シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth disease;CMT),筋ジストロフィー,遠位型ミオパチー,先天性ミオパチー,封入体筋炎であり,すべて指定難病である.これらの神経・筋疾患においては治療法研究が進まなかっただけでなく,運動療法に対しても検討が行われてこなかった(表1).その理由は,強い筋収縮を短時間行う筋力トレーニング(strength training),弱い筋収縮を長期間行う持久力トレーニング(endurance training),または固有受容器神経筋促通法(proprioceptive neuromuscular facilitation technique)などが罹患した運動単位に対して過負荷となり変性が逆に進むのではないかという議論が絶えなかったからである1,2).このため,神経・筋疾患では,廃用症候群の予防のための運動療法すら十分されてこなかった.
運動単位を制御する上位運動ニューロンが変性する疾患群で,両下肢の痙性麻痺により立位や歩行機能が低下するものを痙性対麻痺と呼ぶ.痙性対麻痺を起こす進行性難病の代表はヒトT細胞白血病ウイルス(human T-cell leukemia virus type 1;HTLV-1)関連脊髄症(HTLV-1 associated myelopathy;HAM)と遺伝性痙性対麻痺(指定難病では脊髄小脳変性症の中に分類されている)であり,いずれも指定難病である.これらの疾患では,症状の進行は抑えられず,徐々に立位や歩行が不能になる.運動療法における問題は,歩くごとに病的歩行運動パターンが再学習されることでさらに悪い歩行運動パターンを再学習する悪循環になることである.廃用症候群を予防するために歩くことすら,悪い歩行運動パターンの強化学習となる可能性があり矛盾がある.
神経・筋疾患においても痙性対麻痺においても,適切な運動療法の研究はなされてこなかったため,どのような運動療法が最適であるのか不明なまま運動療法は行われてこなかった(表1).
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