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はじめに
超少子高齢社会,2025年問題,医療過疎地域問題,医療費の増加,受療者の意識の変化など,わが国の保健,医療,福祉を取り巻く状況は,大変厳しい課題に直面している.このような状況において,リハビリテーションの対象者1人ひとりが,できるだけその人らしく生活していくことができるよう,包括的な視点から支援していくことが,わが国のリハビリテーション領域における重要な課題となる1).そして,そのような課題に応えていくためには,リハビリテーション従事者が,日々の臨床活動において,できるだけ安全で効果的な介入に関する適切な臨床判断(clinical decision making)を行うことが重要な鍵となる.
リハビリテーション従事者におけるこのような臨床判断の根拠は,従来,自身の知識,経験則,得手・不得手,先輩からの助言・指導,教科書や参考書の情報,そして,職場の方針などを拠り所としてきた傾向が強いものと推察される.これらの要素のなかでも医療者の経験則は,判断の根拠として大きなウエイトを占めるものと考えられるが,もし,そのなかに,ごく少数の症例における偏った経験則や,単に慣習的に行ってきたような偏った経験則などのバイアスが含まれていると,その後に行う介入内容の安全性や効果に対して,マイナスの影響を与えてしまう可能性もある.
医療におけるこのようなバイアスをできるだけ少なくして,患者中心型の安全で効果的な臨床判断を実践していくための行動様式が,1991年カナダのマクマスター大学のGuyatt2)によって提唱された,根拠に基づく医療(evidence-based medicine;EBM)である.EBMの定義としてSackettら3)は,「EBMとは,個々の患者のケアに関する意思決定において,最新で最良の根拠を,良心的に,明示的に,そして思慮深く用いることである.EBMの実践は,個人の臨床的専門能力と,系統的な研究による入手可能な最良の外的な臨床的根拠とを統合することを意味する」としている.
その後,EBMの概念と手法は,根拠に基づく看護(evidence-based nursing;EBN),根拠に基づく理学療法(evidence-based physical therapy;EBPT)など多様な領域における行動様式として発展してきたため,包括的な表現として根拠に基づく実践(evidence-based practice;EBP)として表現されるようになってきた4).
これまでのEBPに関する定義を参照してリハビリテーション領域におけるEBPの定義を考えてみると,「対象者に関する臨床的疑問に対して,① 医療者の臨床能力(知識・技能・中立的な経験則),② 質の高い臨床研究による実証結果(エビデンス)の内容,③ 施設の設備や環境,④ 対象者の意向や価値観とを統合した最適な臨床判断を行うことによって,対象者の状況に即した安全で効果的な医療を実践するための行動指針」と位置づけられると思われる5)(図1).EBPの実践において大切な点は,「エビデンス“を”参照した臨床判断を行う」とすると,エビデンスを中心とした硬直的な判断になってしまうため,「医療者の臨床能力,施設の設備・環境に,エビデンス“も”加えた基本的な方針と,対象者の意向や価値観との折り合いを取りながら総合的な臨床判断を行う」と位置づけることによって,対象者中心型の質の高い医療を実践することにある.
このようなEBPの行動様式は,わが国の看護や理学療法の分野などでも導入されつつあるが,実際の臨床現場における実践状況は,決して十分とはいえないのが実情ではないだろうか.この背景として,リハビリテーション従事者の卒前・卒後教育におけるEBP教育の不足,EBPの概念や具体的な進め方に関する理解の不足,EBPに対する誤解,EBPに関する知識と実践との間のギャップ(knowledge to practice gap)6)などが要因として挙げられるものと思われる.これらの要因のなかでもEBPの具体的な進め方としてのエビデンスの検索・収集方法と整理の仕方,多忙な臨床現場におけるエビデンスの読み方と対象者への適用の吟味の仕方などの具体的な進め方に関する理解の不足は,EBPがなかなか浸透しないことの大きな要因の1つになっているように感じられる.
そこで,本号から7号の4回にわたり,「リハビリテーション従事者のための論文の検索・収集・整理」というテーマを掲げ,多忙なリハビリテーションの現場において,どのように効率よくエビデンスを検索・収集・整理し,リハビリテーションにおける安全で効果的な臨床判断に活用すればよいのかという観点から,邦文データベースである医中誌Webの使い方を5号で,英文データベースであるPubMedの使い方を6号で,そして,ENDNOTEやRefworksなど文献管理ソフトの使い方を7号で解説する.
本稿では,まずEBPの基本的な進め方である「5つのステップ」とその要点について概説する.
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