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今から20数年前,私はまだ大学院生であり工学部の研究室にて工場の自動操業のための画像処理に関する研究をしていた.しかしこのころ,本来の研究テーマとは別に福祉用具に関する調査にかかわる機会があり,リハビリテーションや福祉の分野を全く知らない私にとっての大きな転換期となった.当初は,障害は治らない怪我の後遺症であり,福祉用具はそれを補うものというイメージしかもっていなかったが,この調査を通して「パーソナルコンピュータ(PC)は,障害者の有効な道具になるのではないだろうか」と考えるようになった.私は日常的にPCに向かって研究をしており,自分ではできないシミュレーションなどの計算をプログラミングし,結果はワープロでまとめ,電子メールを使ったやり取りもしていた.工場の自動操業も重要なテーマであるが,私が日常的に行っているようなことがもっと普及すれば,PCは身体に障害があり,何かの作業をすることに制限のある人の不便を解消するだけでなく,不可能を可能に変える道具になると思うようになった.その後,上田敏先生の著書を読むなかで「全人間的復権」という考え方に出会い共感し,自分の思考が整理されてきた.
それから,社会では情報通信技術は大きく進化し生活の中に溶け込んだ.福祉用具である電動車椅子や義手・義足などでは,外観的にはわかりにくいが制御機構や調整機能が改善した.さらに,代替筆記具や会話補助などのコミュニケーション機器ではそれ以上の大きな変化が生じている.従来は,専用の筐体に組み込まれた特別な装置として福祉用具を作り上げていたが,今日では,PCやタブレット,スマートフォンにアプリケーションソフトをインストールするだけで,同等の機能が実現できる.これは,新しいモノをゼロからつくるだけでなく,日常利用するモノをうまく活用しているともいえるが,福祉用具でなくても工夫や調整することで,障害があっても利用を継続できると捉えることもできる.車椅子でも義手・義足でもコミュニケーション機器でもソフトウェアによる調整でそれを利用する人により適合し,活動・参加の可能性を拡大するのであれば,これらはまさにリハビリテーションであるのではないだろうか.言い換えるならば,何らかのモノを使い続けるためには調整が必要である.そして,自ら調整をできる場合はそれでよいが,できない場合にはその支援が必要で,モノとサービス,すなわち物的支援と人的支援の両者が一体となったとき,真のリハビリテーションを実現するのであろう.
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