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Q1 認知症の診断名は身体障害者手帳の対象になりますか?
A1 認定基準によると「アルツハイマー病に限らず,老人性の痴呆症候群においては,精神機能の衰退に起因する日常生活動作の不能な状態があるが,この疾病名をもって身体障害と認定することは適当ではない.」とされています.よって,寝たきり状態,日常生活動作(activities of daily living;ADL)全介助の状態にあったとしても,失認・失行,自発性の著しい低下あるいは不穏状態が続いているなど,その原因が認知機能そのものの低下による場合には,肢体不自由の障害として手帳診断を行うことは適切とは言えません.一方,認定基準では「関節可動域の制限や筋力低下などの状態が認定基準に合致し,永続するものである場合には,二次的であるか否かにかかわらず,当該身体機能の障害として認定することは可能である.」とされています.例えば,著しい自発性低下が長期にわたり,寝たきりの状態が続いた結果,著明な筋萎縮および筋力低下などの廃用性変化を来し,歩行困難などの状態があれば,肢体不自由の手帳診断を検討することができると考えます.あるいは認知機能の低下だけでなく,パーキンソン症状など他の神経学的所見を合併していてADLに支障を来しているような場合にも,手帳診断を検討することができます.すなわち認知症の診断であっても,廃用症候群などにより,認定基準に合致する程度の機能障害の所見(筋力低下や関節可動域制限など)が証明され,障害が永続するもの,あるいは訓練の効果が期待できない状態と判断されるのであれば,身体障害者手帳認定の対象になりうると考えます.ただし,障害が永続するもの,または少なくとも改善の余地が極めて少ないと判断するためには,ある程度の経過観察を行ったうえで,診断する必要があります.廃用性の筋力低下により手帳診断を行う場合には,おおむね6か月程度の経過観察期間を設けることで,自治体の等級判断が円滑に進められると考えられます.そして,発症日を明確にすることが困難な場合も考えられますが,たとえば「平成○○年△月頃から,歩行困難となった.」というように,おおよそでもよいので発症時期を記載することが重要です(表).また,リハビリテーションなどの治療経過を記載し,治療を行ったが障害が残存したことを示すことも,大切な情報となります.
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