Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「タリウム少女の毒殺日記」—理解しにくい事件を虚構と現実の融合によって解き明かす試み
二通 諭
1
1札幌学院大学人文学部人間科学科
pp.79
発行日 2015年1月10日
Published Date 2015/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552200121
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「タリウム少女の毒殺日記」(監督/土屋豊)は,東京国際映画祭(2012)の「日本映画・ある視点」部門で作品賞を受賞し,2013年7月に東京で公開されたが,その後の劇場展開はなく,筆者が本作に正対できたのは2014年秋の札幌における自主上映であった.
勝手な想像だが,劇場側には積極的に上映とはいかない,なんらかのためらいが生じたのではないか.筆者にして,いじめの被害者でありながら,母親には加害者である発達障害者を観察対象とする本作の成り立ちに,言葉にできない危うさを感じた.これは,特別支援教育実践者という筆者の属性ゆえのことであるが,それに留まらず土屋独自の手法にも由来する.すなわち,映画は虚構,という約束事からの逸脱である.園子温であれば,おぞましい光景も祝祭的に美しく見せてくれるが,土屋にそれはない.フィクションをドキュメンタリー(現実)によって説明するのだ.時には監督自身がインタビュアーとして介入する.虚構と現実の境界に意図的にゆらぎを生じさせるのだ.
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