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一般整形外科の分野から小児整形外科・リハビリテーション専攻に舵を切って肢体不自由児施設に勤務し始めたのが約30年前,爾来脳性麻痺の整形外科治療の研鑽を重ね,現在は重症心身障害児施設に在籍して小児整形・リハビリテーションにかかわっています.戦後米国からリハビリテーションがもたらされる以前,わが国では身体運動機能訓練,整形外科手術とともに保育・教育,社会教育をも行う「療育」を高木憲次先生が提唱し,肢体不自由児施設を設立したのは敗戦前でした.肢体不自由児施設は医療機関であるとともに児童福祉施設であり,療育では医療と同じ重みを人間形成,安全安楽な生活の中でQOLを重視する福祉マインドも求められますので,そのギャップにカルチャーショックを覚え,「療育」を受け入れるのに数年かかった記憶がありますが,今では「リハビリテーション」よりも「療育」を自然に使っております.
日々の脳性麻痺の療育では過度の筋緊張亢進にはほとほと手を焼き,リラックスしている時は低緊張でも随意運動や精神的興奮で筋緊張は高まり,その低緊張と緊張亢進の落差の大きさには頭を悩まします.静止時の筋トーヌスはAshworth scaleで表示するのが通例ですが,動的な状況での筋緊張を判断する手立てはありません.例えば背臥位でリラックスすると足関節は容易に背屈するが,起立歩行すると尖足を呈する場合,補装具作製や手術術式を決める基準をどこに置くか? 安静時,背臥位での肢位測定? 静止起立時の足部状態? ゆっくり歩いている時の尖足? 飛び跳ねている時の尖足? どの状態を基準にすべきか? 拙い手術経験から導いた結論では,やや早足で歩いた時の尖足を診て術式を決めるのが最善と考えております.すなわち静的な測定ではなく,動的な筋緊張亢進状態を診て尖足への手術,補装具作製を進めます.動的状態での筋緊張を判断する手段はありませんので,「科学的」には程遠い見解になりますので論文にできませんが,そうして判断して選択した手術,補装具はまずまずの結果ですので,実際に応用できる経験則になります.絶えず筋緊張が亢進して異常姿位を呈している重症児者は少なくなく,「持続的筋収縮状態」という文言を提唱する見解もあり,QOLを高めるためにも動的状況での筋緊張亢進状態の解明,特にその状況での脳の解析が待たれます
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