Japanese
English
講座 中枢神経の可塑性
4.聴覚
Cross-modal plasticity in the auditory system.
土井 勝美
1
Katsumi Doi
1
1大阪大学大学院医学系研究科感覚器外科学耳鼻咽喉科
1Department of Otolaryngology and Sensory Organ Surgery, Osaka University Graduate School of Medicine
キーワード:
聴覚野
,
聾
,
人工内耳手術
,
脳機能画像
Keyword:
聴覚野
,
聾
,
人工内耳手術
,
脳機能画像
pp.817-821
発行日 2002年9月10日
Published Date 2002/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552109851
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はじめに
ヒト大脳皮質を構成する神経回路網は,経験に応じて常に自身を再構築することが知られている.大脳生理学およびPET,MEG,fMRIといった脳機能画像検査の進歩により,特に,外界からの感覚入力を表現する感覚野では,その末梢からの入力変化に応じてダイナミックな可塑性を示すことが明らかになってきた.聴覚,視覚,体性感覚(触覚・振動覚)等の感覚情報は相互に影響を与えながら,いずれかの感覚入力に減弱・脱落等の大きな変化が生じた場合には,それを代償する方向に神経回路網全体をきわめて合理的に再構築,再編成することが確認されている1).
これら感覚入力の遮断によって生じる脳の可塑性は,時に幻肢痛,耳鳴といった陰性の生理現象と結びついているが,その多くは,失われた感覚入力を補正,補完する方向に作用する合目的な陽性変化と考えられる.神経生理学の分野では,大脳機能の発達段階において,それぞれの感覚入力に依存する神経回路網の形成には臨界期が存在し,その時期を過ぎると脳の可塑性はきわめて限られたものとなることが知られていた.したがって,感覚入力の変化によって惹起されるヒト脳における可塑性もかなり限定された条件下においてのみ観察されるものと推察されてきた.しかしながら,近年の脳機能画像検査の進歩により,これは必ずしも正しくないことが明らかになってきた.すなわち,成人の完成した脳(感覚野)においても,感覚入力の変化によってダイナミックな神経回路網の再編成が生じることが確認されたのである.
今回は,脳機能画像解析,神経生理学的および聴覚心理学的研究により明らかにされてきた聴覚野における可塑性を中心に紹介する.
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