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はじめに
吃音者の発話流暢性を高める方法の一つとしてリズム効果法が挙げられる.リズム効果とは聴覚,視覚,触覚いずれにしろ,適度のリズミカルな刺激を与えると吃音が減少することであり,1分間100回前後の規則音による音刺激が効果的である1).メトロノームやタッピングに合わせて発話する訓練などが行われている2,3).同様のアプローチとして,モーラ指折り法4-7)(以下,本法)が考えられる.
本法を用いた臨床報告としては,麻痺性構音障害5),aphemia6),Broca失語7)の患者に対する訓練例などが挙げられる.福迫ら5)は,本法を脳血管障害後の症候性吃音患者に試み,成果を経験し,その適用範囲については,さらに具体的な症例の積み重ねによる検討が必要であると述べている.しかし,これまで本法を発達性吃音者の言語訓練に適用した報告はみあたらない.
本法は,メトロノームのような外からの聴覚刺激ではなく,患者自身の手指の運動感覚(+視覚)に合わせる点が異なる5).指折り動作は自発的に行うものであり,タッピングと同様に患者自身によるコントロールが可能であり,メトロノームに比べてフィードバックという点でより効率的である5).タッピングでは患者自身の身体以外のものを叩いて音を発する必要があるので,コミュニケーション時に雑音が出る,動作がより目立つなどの点において非実際的である.これに比べて本法は,実施にあたってメトロノームのように機器を用意あるいは持ち歩く必要がなく,手技が容易であり,会話場面では指折りが目立たないようにテーブルの下やポケットの中で行うことも可能である5).
音節とモーラの区別について,音節が「母音を中心とした音の単位」というように音連続上の形として定義されるのに対し,モーラは「詩や発話における長さの単位」という機能的な側面で定義される8).日本語では,音節ではなくモーラが基本的な長さの単位となっている9).例えば,「テン」,「キー」,「アッ」,「ハイ」などの1音節語の中に撥音,長音,促音,二重母音の後部要素を含むものについて,日本語話者は2つの単位(/te/+撥音,/ki/+長音,/a/+促音,/ha/+二重母音の後部要素)に分節(各々2モーラ)している9,10).
また氏平11)によれば,軽症の成人吃音者および非吃音者のくり返し型の非流暢性の分節単位はモーラが多数を占める.
以上より,本法は日本語話者の吃音者に適用可能な方法ではないかと考えた.
そこで,本研究では成人吃音者を対象とし,本法の効果について検討を行うこととした.本法を練習後速やかに用いることができるよう発話課題は文章音読とし,発話方法は以下4種,①通常の音読,②全文に本法を用いた音読,③文頭に限り本法を用いた音読,および,④文頭に限り随意吃(本研究では文頭の音節を意図的に軽く2回くり返す)と本法を併用した音読,とした.
今回,③および④を実施するのは,吃音の生起は文の初頭部分が多数を占め12),語頭第1音節の頭より第2音節または第2モーラの頭に現れると考えられる13)ことと,本法の日常生活場面への適用の可能性について検討したいと考えたためである.③および④の方法で吃音頻度に低下がみられたなら,指折り動作を発話開始時に限るなど日常場面での使用が容易になると考えた.
吃音の言語訓練法は抑制法と修正法の二者に分類されている.抑制法では吃らない「流暢な発語」を学習する目標があるのに対し,修正法は軽く吃らせて(随意吃)徐々に修正する技法である.抑制法では短期間で行動改善が可能であるが,「再発」防止を期待できない短所があり,修正法ではそれを防止できる長所を備える反面,長期間を必要とする14).現在では両者を統合する方法が探究されつつあるが,決定的な方法は存在しない14).このことから,抑制法としての適用が考えられうる本法に随意吃を組み合わせることで修正法としての活用を試み,両方法の統合の可能性についても検討したいと考えた.
以上を踏まえ,本研究では成人吃音者を対象とし,本法の効果と,日常生活場面への適用の可能性について検討を行うことを目的とした.
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