脳損傷の地域リハビリテーション―オーストラリア，クイーンズランド州の試み

Community based rehabilitation system in Queensland, Australia.

はじめに

　身体障害のない高次脳機能障害は見えない障害とも，隠された障害とも言われ，先進諸国において大きな社会問題となっている¹⁾．平成13年度，国は高次脳機能障害のケアシステムの検討に着手することになった．しかし，脳損傷，とりわけ脳外傷の急性期から維持期に至るリハビリテーションはわが国では不十分な状況にある^2，3)．

　オーストラリアの医療制度は英国に類似してはいるが，民間保険の活用を行うなど，英国と米国の中間にあり，わが国により近い制度を持っている．このたびオーストラリアにおける脳損傷の急性期，亜急性期，維持期のリハビリテーションシステムを視察調査する機会を得たので，その概要を報告する．

　クイーンズランド州は，ケアンズやゴールドコーストなどの観光地によってわが国にもよく知られている．クイーンズランド州の州都はブリスベンである．オーストラリアの総人口は1,872万5千人，クイーンズランド州は348万5,200人で，ブリスベンには州人口の45％が住んでいる（1998年）．

　クイーンズランド州では毎年11,000人が脳損傷を受け，そのうち約4,000人が重症になる．ここで脳損傷というのは英語のAcquired Brain Injury（ABI）で，後天性脳損傷のことであり，原因には脳血管障害，脳炎，外傷などが含まれる．Brain Injuryを脳外傷と訳することもあるようだが，脳外傷はTraumatic Brain Injury（TBI）と英語では表現され，外傷性脳損傷のことを言う．