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はじめに
著しく進展する高齢社会のなかで,健康的に自立した生活を送ることのできる期間,すなわち健康寿命の延長とQuality of Life(QOL)の向上にとって骨格系および筋系の老化予防と疾病予防は必須の条件である.
国民生活基礎調査による有訴者率のなかで,65歳以上の高齢者において常に1位,2位,3位の上位を占めているのは腰痛,手足の関節痛,そして肩の痛みなど,全て筋骨格系の痛みやそれに伴う機能障害なのである.また,地域在宅高齢者における生活機能低下は,主として75歳以上の後期高齢期(特に女性)に著明となってくるのが,この主要な原因もまた筋骨格系の障害によるところが大である.このような高齢期における筋骨格系の障害のなかで,特に最近目立ってきたのが転倒による骨折,なかでも大腿骨頸部骨折の増加が著しい点である.
骨粗鬆症やそれに伴う骨折には,人生のさまざまなステージでのライフスタイル(日常生活習慣)が大きく関与している.もちろん,骨粗鬆症あるいは骨折には,人種や性,年齢あるいは遺伝的素因など,個体の努力では変えることのできない確定的要因としての危険因子も存在している.しかし一方で,栄養摂取(特にカルシウム摂取)の習慣や運動,喫煙などの習慣は個人の努力によって骨量減量を予防し,ひいては骨折を予防することのできる,いわば改善可能な(抑制因子としての)ライフスタイルも存在する.しかも,これらの骨粗鬆症や骨折に対して有効なライフスタイルの多くは,(現代日本人での)他の生活習慣病に対しても予防的な効果のあることが知られており,ライフスタイルを改善することはあらゆる意味において一次予防としての重要性をもっていることになる.
本稿で述べる大腿骨頸部骨折もまた生涯にわたるライフスタイルの蓄積が,その発症の要因あるいは危険因子として大きな意味をもっている.ここでは,欧米との対比のなかで,日本の大腿骨頸部骨折の特異性を指摘するとともに,これまでのわが国での疫学的研究から本症のライフスタイルに関する要因について概説する.
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