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はじめに
現在,わが国は急速に高齢化社会に向かいつつある.高齢者の脳損傷に伴う神経心理学的症状の一つに前向健忘,いわゆる物忘れがある.これは脳炎や脳卒中などの後遺症として単独に見られることもあるが,多くは痴呆の初発症状として出現し,痴呆の進行とともに重度化していく.自身の行動や周囲に起こった出来事をそのつど忘れていくため,例えば財布の置き場所を忘れたり,済んだ食事を「まだ食べてない」などと強引に主張したりする.このため,自立的で計画的な生活が困難となり,介護者にはなはだしい精神的負担を強いる.
前向健忘患者(以下,患者)の生活スケジュールの指示や出来事を記録する方法として,一般的にメモ帳の利用が勧められている1,2).しかし,メモ帳自体を持っていることを忘れてしまう患者も多い.このため手帳とアラーム音を組み合わせた方法も発表されている3,4).これはより患者に適合した方法ではあるが,アラーム音のたびに予定された行動を患者自ら確認する意欲や能力が必要とされる.コンピュータによるスケジュール管理の方法もあるが,健常者用の機器が用いられており,操作方法など患者に対しては困難なことが多い5).なかには,キングジム社ボイスタイマーやソニー社ICレコーダーICD50のように音声出力して直接使用者に指示する機器もいくつか市販されているが6),出力音声が変更できない,出力回数に制限がある,などで患者には適応しにくい.
生活スケジュールの管理と出来事の記録などをより確実に患者に行ってもらうためには,1)患者に必要な指示が録音できる,2)それらの指示が必要な時刻に音声出力でき,必要回数繰り返せる,などの機能を持つ機器があることが望ましい.このような機器があれば,より広い範囲の患者の自立を支援でき,同時に介護者の負担を軽減できる可能性も生じよう.この度われわれは,以上の条件を満たす音声出力記憶補助機(Voice Output Memory Aids;VOMA)を試作し,2例の患者に適用を試みた.
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