Japanese
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特集 リハビリテーションと医療・保健・福祉―経済的側面から
医療・福祉抑止論の背景と今後の展望
Backgrounds and Future of Suppression of Social and Medical Insurance.
田中 信行
1
Nobuyuki Tanaka
1
1鹿児島大学医学部リハビリテーション科
1Department of Rehabilitation and Physical Medicine, Kagoshima University Hospital
キーワード:
社会保障
,
社会福祉
,
GNP
,
総医療費
,
情報
Keyword:
社会保障
,
社会福祉
,
GNP
,
総医療費
,
情報
pp.237-241
発行日 1998年3月10日
Published Date 1998/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552108614
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はじめに
近年,わが国では,医療や福祉関連費用の増大に対する懸念,さらにはその抑止を求める発言がしばしば聞かれる.しかし,その論調は,ただ高齢化社会の到来や老人医療費の増大,年金制度の破綻等の不安をかき立てるような言葉の羅列が多い.わが国の総社会保障費用のGNPに対する比率は,欧米先進国と比較して明らかに低い(図1).それにもかかわらず,その抑止を求め,また,その適切な比率についての検討もほとんど見られぬ点が最も懸念される.
医療や種々の福祉制度,年金の有り難さは,病気や障害,失業や孤独,高齢になってみないと分からない.人には皆,これらの困窮に陥る可能性があることを分かってはいるが,その理解は観念的である.具体的で,かつ美しい消費を煽る言葉や,医療や福祉は過剰,あるいは早晩破綻するかのような論調が,かなりの国民を医療や福祉抑制の方向に向かわせることが懸念される.
国民総生産(GNP)の余りに大きな部分を社会保障(医療費,社会福祉,年金)につぎ込むのも,社会の活力を低下させる.しかし,その過剰な抑制は,国民の将来への不安の助長,ひいては社会への貢献や相互の連帯の意識を失わせ,ただ表面的な物の消費を助長することになると思われる,社会保障費の抑制で浮かせた金は,結局,大半物質的消費に費やされるからである.
全ての社会保障制度は啓蒙的,政策的存在である.医療やリハビリテーション,障害者福祉に関わる者は,それへの妥当な支出や,その社会的実現の方法についても深く考えねばならない.
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