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人口の高齢化,医療技術の進歩が医療費の高騰の主因であり,国民生活は極度に圧迫されている.これが事実であれば,全体的視点に立って社会的資源の適正配分を工夫しなければならない.逆にこれが事実でないにもかかわらず,この通説を根拠とした医療費抑制政策が日本の医療を極度に圧迫しているならば,実態を直視・分析しなければならない.著者は本書で人口の高齢化,医療技術の進歩を医療費高騰の主因とすることを明快に棄却する.一般に「常識」とされる事象を多くの資料を基に覆していく.
本書は6章からなり,第1章では老人の医療費の増加率,入院医療費,入院受診率,社会的入院医療費の増大という常識を厚生省の資料を中心に見事に反論し,老人保健法によりむしろ医療費が抑制されているとする.第2章ではMRI,慢性透析医療の日米比較を行い,医療制度の違いが医療技術の進歩に及ぼす影響を分析している.MRIについては機種,台数患者の支払い方式などの資料から,日本では医療技術の進歩と医療費抑制とが共存する特殊状況があることを指摘する.慢性透析医療では,米国が日本と異なって包括支払い制であり,慢性透析医療の質,5年間生存率が日本より低いことを明らかにしている.日米の医療事情に精通しているため説得力があり,2国の条件の違いを利用して政策と医療技術の関連を引き出す手法は洗練されている.第3章では診療報酬の改定にもかかわらずリハビリテーション医療費総額は抑制されていること,リハビリテーション施設の施設基準の違いなどによってリハビリテーション計に格差が生じたことなどが指摘されている.その他,リハビリテーション部門の原価計算などリハビリテーション医療に携わるものに大変関心のある内容が列挙されている.第4章では,在宅ケアを中心にして医療の効率化と医療費抑制の違い,効率化の際の留意点が,第5,第6章では医薬品の臨床経済学,病院チェーンと勤務医給与の動向が述べられている.
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