書評
二木 立 著「医療改革―危機から希望へ」
千田 富義
1
1秋田県立リハビリテーション・精神医療センター
pp.299
発行日 2008年3月10日
Published Date 2008/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552101210
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本書の構成は,小泉・安倍政権の医療改革の特徴,医療ソーシャルワーカーの役割,日本の医療満足度と医療費の常識のウソからなるが,その多くを医療改革の特徴に当てている.小泉政権下で目指した新自由主義的改革は破綻したが,医療費抑制政策は強行されて医療危機・荒廃が生じたこと,安倍政権では基本的政策は踏襲したが医療費抑制政策の部分的見直しを行っていることが論じられている.改革には公的医療費の増加が不可欠との著者の持論を展開し,それでもなお抑制政策の部分的見直し,マスコミの報道姿勢の変化などを医療危機のなかの一筋の希望と捉えている.医師会など専門職団体の自己規律の強化を希望の一つに挙げているが,このような医療界に対する自己改革への期待は本文中に何か所もみられ,著者の医療人としての真摯な態度がうかがわれる.
本書の医療改革の部分は,小泉・安倍政権7年間の医療改革案をその都度分析した論文の集積である.過去の分析ではなく,現在展開中の出来事に関する事実認識と客観的将来予測が繰り返される.客観的将来予測により,現在の事実認識の正否が将来に検証されることになる.予測と異なった結果には,明らかになった時点で反省していることには好感がもてる.この分野の一般的な研究手法かもしれないが,事実認識と予測の検証が本書の科学性を裏付けている.2006年10月の論文で,著者は医療療養病床15万床への削減は困難であるといくつかの理由を挙げて予測している.本書評執筆の最中,医療療養病床の削減幅緩和という2008年1月の新聞報道が眼にとまり,客観的将来予測の正しさをあらためて実感した.
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