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はじめに
近年,介護を要する老人に対する介護者の介護負担に関する検討の重要性が国内外の文献において,明らかになりつつある2-8).ただし,それは主として家族の介護負担感に着目したものであり,特別養護老人ホームの職員に対して行われたものはほとんどない.また従来の研究に見られる「介護負担感」は,精神的な負担感と身体的な負担感を分離して検討しておらず,いまだ介護者の負担感に関してはその全体像が明らかになっていないのが現状である.
最近の調査によれば,高齢者の生活の場は家族の介護能力の低下に伴って家庭から施設へと徐々に移行していることが明らかにされている8).このことは,入所者に関わる問題だけではなく,介護職員の健康管理や適正配置の問題とも密接に関係してくると予想される.
このような介護環境の検討は,これまで老人にとっての最適環境という観点から検討がされており,介護職員の健康を考慮した研究はほとんどない.本研究では,老人はもとより,介護職員が労働するにあたっても最適な環境であるという環境を「介護環境」という言葉で示すこととする1).老人福祉施設が老人にとっての「生活の場」であるという視点は重要であることはもちろんである.しかし,最近の労働力不足や転職率の高さといった社会的状況をみると,今後は介護職員にとっての労働環境をも考慮した老人福祉施設の環境,すなわち「介護環境」の検討が必要となってくることは容易に予測できる.とりわけ,介護職員の転職の大きな理由に腰痛等の健康上の理由が多くあげられており,職員の介護負担感の重さは重要視されつつある.
先に述べたように,職員の介護負担感を軽減するための介護環境という観点からの検討を行うためには,どのような高齢者の介護が介護職員に身体的および精神的な負担感を与えるかといったことの把握が必要である.
そこで本研究は,どのような個体条件を有する要介護高齢者が施設の介護職員に介護上の精神的および身体的な負担感を与えるかということを把握することをねらいとして,施設職員の介護に関する負担感の有無と要介護高齢者の知的能力,運動能力,身体条件(視力および聴力),性差,年齢との関連性について検討することとする.
これらの検討後,たとえばある特定の介護が職員にとって精神的,身体的負担感が大きいということが示されるならば,施設間におけるこれらの介護負担感の差を検討することによって,特別養護老人ホームの介護環境を考える重要な基礎的資料となるであろう.
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