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はじめに
近年,高次脳機能障害のリハビリテーションにおいて,機能障害の改善のみでなく能力障害やハンディキャップに対する働きかけの重要性が叫ばれ1),失語症の言語治療においても,能力障害に対するアプローチが試みられるようになってきた1-4).しかし,ハンディキャップへのアプローチについては,患者や家族に対するカウンセリングの重要性を指摘した論文はあるが5-8),患者周囲の社会に直接働きかけることによって患者のハンディキャップを軽減していこうとする試みはいまだ少ない.
筆者らは,ハンディキャップに対するアプローチのひとつの試みとして,失語症者自身に働きかけるのではなく,失語症者とコミュニケーションをとろうとする周囲の者に直接働きかけることによって彼らのコミュニケーションを改善する方策を具体的に検討した.
失語症者の実際の日常生活場面では,彼らが日常物品を指差したり,探し出して持って来るというようなコミュニケーション方略(ストラテジー)をしばしば用いていることはよく知られた事実である3).Davisら4)やLubinski8)は,身のまわりにある小道具(props,例えば時計やカレンダー,絵,掲示板,案内板など)が患者の関心を引き,それによって理解力や発語力が促進すると述べている.これらの小道具は日常どこにでも存在するものでありながら,積極的に失語症者とのコミュニケーションを促進する道具としてはあまり認識されていない.そこで筆者らは小道具のひとつとして,準備の容易なカレンダーと地図を用い,失語症者とのコミュニケーションにおいて,周囲の者がこれらを準備し用いることの有用性について検討した.
周囲の者が失語症者にカレンダーや地図という小道具を提示して失語症者がそれを指差すというコミュニケーション方略をとることによって,口頭で答えたり,書字で示すよりも正確にかつ迅速に情報を伝えることができるという仮説のもとに2課題よりなる検査を行った.
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