Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
ブッデンブローク家のクリスティアン―患者の言い分
高橋 正雄
1
1東京大学医学部精神衛生・看護学教室
pp.245
発行日 1993年3月10日
Published Date 1993/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552107322
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トーマス・マンの「ブッデンブローク家の人々」(松浦憲作訳,講談社世界文学全集)は,北ドイツの穀物商家の4代にわたる歴史を描いた長編小説であるが,その中には,有能な領事で市の参事会員でもある兄トーマスと,心気的訴えばかりして一向うだつのあがらない弟クリスティアンという,対照的な兄弟が描かれている.そしてそこには,いわゆる健常者の病的人間への無理解と,それに対する患者側の言い分が示されているようで,医学的にも興味深い内容になっている.
クリスティアンは8年間の南米滞在の後帰国したのだが,帰郷後も,「左脚のはっきりしない苦痛」を訴え,熱心に始めた商売もすぐ飽きてしまうなど,世間的には無能の人間だった.他方,何よりも一族の名誉と繁栄を重んじる兄のトーマスは,「クリスティアンが自分のいろいろな病気の徴候について詳しく報告するのに同情したり,平静に耳を傾ける」ようなことはしなかった.トーマスは,この弟に「ほかの人をお前の不愉快な繊細さでわずらわすのはやめろ」とか,「お前はおできだ,私達の家族の体の病気の箇所だ」という言葉を吐くまでになるが,母親が死んだ日,遺産相続をめぐって,遂に2人は衝突する.
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