移乗動作―基本訓練

Transfers.

はじめに

　疾病あるいは外傷によりベッド上臥床を余儀なくされた患者が，移動方法を獲得するにさまざまなステップがある．障害が軽度であれば，短期間に元の歩行に戻ることができるが，障害の範囲あるいは程度により，さまざまな移動方法が選択される．移動動作にはベッド上あるいはいざり動作などの床面の移動，車椅子，ストレッチャー，リフトなどの器械を用いての移動，杖なしあるいは杖にての歩行がある．移動は異なった生活場面に移るために行われ，特に障害者にとっては生活空間を広げるために重要な能力と考えられる．移乗動作はこの移動動作のうち，その言葉のとおり（従来は移行と訳されていたが），器械・器具を用いての移動の際に乗り移る動作として行われるもので，1つの生活の場面から，あるいは1つの生活の場面への転機となる動作である．移乗動作の獲得は排泄や入浴などの他のADLの自立に不可欠であり，ベッド上臥床に伴う褥創を始めとしたさまざまな廃用症候群の予防にも役立つ．さらに循環器系の改善や食欲の亢進などの身体的な効果の他に心理的にも良好な効果をもたらす．