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医学部の学生にベッドサイド・ティーチング(BST)を行うようになってかれこれ3年になる.学部の4年生が整形外科のBSTの時間のうち一日をリハビリテーションに当てて,平均5人のグループで回ってくるのである.金沢大学医学部で学生がリハビリテーション医学を学ぶ数少ないチャンスの一つであり,教える側も自然に気がはいる.かく言う私は,6年間の学生時代に後にも先にもただ1回あったこのBSTのときに初めてリハビリテーション医学というものの存在を知り,それまでどこに入局しようかと浮動票的立場にあったのが,医局もないところに飛び込んでしまった.今でもPT,OTもADLも何を意味しているのかよく知らない学生にとって,いきなりリハビリテーションBSTであちこち引きずり回されると,少なからずカルチャーショックのような状態になる.そういった学生の反応を見ると,教える者としてもやり甲斐があり,BSTを担当して良かったと思う反面,大抵の学生から何故診療科がないのかという疑問を受けることになる.この問題は誰もが御存知のように根が深く,学生に正直に言ったものかどうか,気の弱い私は「過渡期」だからという便利な言葉で逃げてしまう.こうなると,学生の方は何とか片手間でリハビリテーション医学が学べないものかと矛先を変えてくる.そんなことが不可能なことぐらい,専門医になれば皆知っていることなのだが.
学問を学ぶのには診療科や講座がなくても何とか可能だが,それを納得する学生は少ない.ごく稀に,自分も含めて散発的に金沢大学理学療法部に入ってくる卒業生もいるが,奇特と言うしかなく,現実問題として,リハビリテーション医学を生業としたであろう卒業生がボロボロとこぼれていくのが残念である.今の理学療法部たるや,金字塔のように輝く伝統ある講座の狭間で新参者が軒下を借りながら,細やかでもいいから何とかマイホームを持ちたいと足掻いているサラリーマンのようである.これから家探しをしようという新人類にとって,ケチの付いていない庭付き一戸住宅と,いつ独立できるかわからない新しいけど狭い間借りとどちらがいいかなんて聞くだけ野暮だろう.
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