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はじめに
現代の医療は高度に専門分化し,一人の患者に対する医療サービスの供給に,複数の医療関係者が連携・協働して従事するのが通常である.こうした連携・協働は,具体的な患者についての診療に関する明確な意思決定および決定された事項の確実な実行という目的のもとに行われる.したがって,そこでは,医療サービスの供給に係わる事項についての意思決定を行う権限ないし責任を持つ者から,決定された事項を実行に移す任務を負う者に対する指示というものが常に存在する.
ところで,わが国の医事法制においては,医療に関しては医師の絶対的地位が確立され,医業については医師の業務独占が承認され,医療補助業務については医師の監督のもとに他の医療関係者がそれぞれの補助業務を独占するという医療業務分担システムが設けられている.したがって,従来,医療サービスの供給に関するあらゆる事項が医師によって意思決定され,医師の指示のもとに,他の医療関係者がそれぞれの専門業務に従事するということがなされてきた.しかしながら,最近の医療においては,一方では,医療に関する意思決定に関して患者の自己決定権が強調され,他方では,医療技術の進歩に伴う新たな専門業務,あるいはアメリカにおけるナース・プラクティショナー(Nurse Practitioner)またはフィジシャンズ・アシスタント(Physician's Assistant)の登場にみられるように,現在の医師に対する医学教育・訓練では埋めることのできない分野の専門業務の領域が広がりはじめている.こうした現状に鑑みるとき,わが国の医事法制のもとでの医師の指示の根拠,射程範囲などが改めて問われてくる.
本稿では,まず,現在の法制のもとで医師の指示がどのように位置づけられているかを明らかにしたうえで,つづいて患者の自己決定権の強調,医療サービス供給における新たな専門的業務の登場など,従来とは取り巻く状況が大きく変化してきている現代医療において,医師の指示が法的にどのように把握されるべきかを検討することにしたい.
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