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はじめに
18世紀中頃,英国のR.E. Stoneは発熱に対して柳皮の抽出液が奏効することを報告した.その後,Lerouxは1829年に柳皮からサリシン(Salicin)と呼ばれる苦味配糖体を抽出し,更に後年,この配糖体からサリチル酸(Salicylic acid)を単離し,解熱効果のあることを明らかにした.1860年にKaubeおよびLautemannはサリチル酸ナトリウム(Sodium Salicylate)を合成し,1875年,初めてリウマチ熱の治療に用いた.
このように,リウマチに端を発した炎症の治療に薬物療法を行ってから,既に100年以上が経過している(図1).この一連の化合物は,後にステロイドホルモンと区別し,非ステロイド薬(NSAIDs)と呼ばれるようになった.
サリチル酸の解熱効果は,薬理作用の研究により,中枢神経系を介するものであることが判明し,さらに鎮痛効果も有することからリウマチ治療に効果的に用いられてきた.しかし,その後,インドメタシン(Indomethacin)のように消炎作用が特に優れているものや,プロピオン酸(Propionic acid)系のように消炎,鎮痛,解熱効果を併せもつ薬物が開発され,NSAIDsは抗リウマチ薬として重視されるようになった.
一般に,リウマチ疾患の治療方針としては,①痛み,こわばり,腫脹を極力取り除き,日常生活で支障をきたさないようにする,②他疾患からの感染,併発を防止し,栄養状態を保持して貧血等がおきないよう生活指導を行う,③精神状態の安定化をはかり,不安やうつ状態がおきないようにする,④代謝障害等の異常がみられる場合には,直ちに治療を行う,などがあげられる,ことに①に関してはNSAIDsをはじめとし,ステロイド剤,金剤,免疫促進・抑制剤,抗マラリア剤,ペニシラミン,最近では漢方製剤等が用いられている.特に,炎症機序解明の研究が進むにつれ副作用が少なく,原因療法を目指すNSAIDsが開発されている.
NSAIDsの分類に関しては,多くの成書でみられるごとく,一般に酸性抗炎症薬と非酸性(塩基性)抗炎症薬に大別される.酸性のNSAIDsは非酸性のNSAIDsより副作用において,多種かつより高い発現傾向を示す(図2)が,薬理作用や臨床応用での有用性は優れている(表1参照)と考えられ,その種類も多い.表1で明らかなように酸性NSAIDsは特にカラゲニン浮腫抑制作用および抗プロスタグランジン(Prostaglandin; PG)作用で優れ,非酸性NSAIDsでは鎮痛作用のみ優位の薬効を示す.ことに炎症の起因物質と考えられているPGに強い拮抗作用を示すことも,抗炎症薬としての有効性が高いことを示唆している.近年,リウマチ性疾患のうち,慢性関節炎リウマチ(Rheumatoid Arthritis; RA)の治療にNSAIDsは第一次選択薬として用いられている.
ここでは,NSAIDsの作用機序,薬物相互作用,さらに今後のNSAIDsについて述べる.
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