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はじめに
炎症は局所の疼痛(dolor),発赤(rubor),腫脹(tumor),発熱(calor)を伴い,一般に我々の生活にとって好ましくない事柄のように思われる.慢性関節リウマチの場合,自己破壊的な炎症過程が患者を苦しめ生活能力を低下させている.しかし,炎症反応は生体にとって重要な防御機構の一つである.生体に異物が侵入したり,物理的・化学的原因によって細胞や組織の傷害が生じると,微小循環系の反応を介して,その局所に生体防御に必要な物質や細胞を動員し,傷害因子を除去したり,組織障害を最小限に局所に封じ込め,組織の修復を図るのが炎症反応である.炎症反応は損傷の治癒過程と密接に関連している.したがって,炎症反応を抑制する薬剤の安易な使用は,組織の修復や治癒も遅らせる危険性があり注意を要する.炎症反応のメカニズムを解明し,我々にとって好ましくない側面はできる限り抑制し,有益な側面は積極的に促進する手段を考案することが医学・医療の任務であると言える.
炎症に関する研究の歴史は古く,炎症の局所の症状として,疼痛,発赤,腫脹,発熱の四徴を記載したのがAD1世紀のローマ人Celsusであった.ドイツの有名な病理学者Virchowの生徒であったCohnheimの炎症における微小循環系の役割の研究は現在でも遜色がない.微小血管の拡張による血流の変化,血管透過性亢進による浮腫,局所への白血球の浸潤は,局所性の急性炎症を正確に記載している.イギリスのLewisは1927年,炎症と神経系の関連を示唆する現象を記載している.健常者の前腕部の皮膚を鉛筆の鈍い先で擦ると,数秒後に擦られた局所に赤い線が認められる.次いで,その周辺部に赤い発赤(flare)が認められる.やがて擦られた局所には腫脹が出現する.ところが,前腕部の知覚神経が切断された患者ではflareが出現しないことを見出している.
近年,炎症反応に関与しているケミカルメディエイター(化学伝達物質),サイトカインおよびこれらの物質に対するレセプターが分子・遺伝子のレベルで次々と解明されている.炎症と神経系の関連も明らかになってきた.また,炎症に関与する細胞(好中球,リンパ球,マクロファージなど)の炎症局所への動員のメカニズムも接着蛋白の研究によって明瞭になりつつあり,新しい抗炎症療法開発の手がかりを与えている.本稿では,このような最近の知見も踏まえて炎症反応について概括的に述べる.
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