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はじめに
現在の温泉療法は,温泉浴を基本とする水治療法,各種の温熱・物理療法,運動療法,食事療法などを組み合わせて行う複合自然療法である.患者はこれらの治療刺激を連続的あるいは間歇的に反復して受けることになる.
温泉療法で生体に直接作用する因子としては,泉浴時の静水圧,浮力,温熱などの物理作用,泉質による化学・薬理作用がある.間接的な作用因子としては,転地による心理効果,温泉地の気候環境要素などがある.温泉療法という治療環境下ではこのような因子が生体に総合的に働いて,諸機能を非特異的に変調し,器官・組織相互間の調節能,外部からの異常刺激に対する抵抗性や耐性を高め,またホメオスタシス機構の増強や生体リズムの再調整を行うことになる.このように,温泉療法は治療刺激に対する「反応療法」であり,治療環境に対する「適応療法」ともいうことができ,その効果発現には時間を必要とし,一般にリズム性の経過を示すものである1).
生体機能のリズム性変動機構は,生命現象にとって,内部環境の恒常性を維持するホメオスタシス機構とともに基本的な活動系である.生体リズムは,その時間的構成要素として,周期,振幅,位相が重要である.生体リズムを論ずる分野は時間生物学chronobiologyであるが,従来の研究対象は主に生体機能の自律性内因性リズムに焦点が当てられてきた.しかし,内因性リズムは生体機能の内外環境への調節機構が平衡状態にあり,内外環境に完全に適応した状態下でみられるリズムである.これに対し,温泉療法では外から加えられた治療刺激に生体機能がdynamicに反応する際にみられる反応性リズムが優位となり,内因性リズムとは周期,振幅,位相などリズムの時間構造が異なるものである1,2).
本稿では,温泉療法を時間生物学的な観点から考察するが,まず生体機能の内因性リズムの特性が,温泉療法(治療刺激)に対する生体反応に与える影響について述べる.次に長期間の温泉療法が生体機能の反応過程や生体リズムの時間構造に対する影響について,現在までのこの分野での研究成果を紹介しながら概説することとする1~3).
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