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はじめに―リハビリテーション医学の第4の方法論としての心理学
リハビリテーション医学における心理学のあり方をめぐっての講座(全6回)の第1回として,全般的な見地から問題の概観を行ってみたい.
筆者は先にリハビリテーション医学の方法論の発展を論じて,第1期(1920~40年代)の主として末梢運動系の異常に対応する方法論(「整形外科的アプローチ」)からはじまって,第2期(1940年代末――現在)の中枢神経系運動障害に対応する方法論(「神経学的アプローチ」)の時代へと進み,さらにいまや第3期,すなわち高次脳機能障害に対応する方法論(「高次脳機能学的アプローチ」)を発展させる時代に入りつつあるとした.そしてさらに最近は心理学的アプローチの重要性が増してきており,第4のアプローチとして位置づけられる日も遠くないであろうとした1).
これはある意味ではもっとも単純な機械系である末梢運動器から,より上位の運動統御系である中枢神経系(の感覚運動関連領域)へ,そしてより高次の行為認識を司る中枢神経系(の連合領域)へ,そして最後に更に高い精神心理の領域へとヒエラルヒーを下から上へ逆にたどって行くかたちで方法論が発展していくという,単純から複雑へ,基本的なものから上位のものへという発展段階論である.こういうものの常として,一面では大きな流れをうまく説明できても,細かい点では必ずしも一致しない点があることは当然で,脳高次機能にしても失語症などは1950年代からすでに活発な研究活動がはじめられていたし,心理学的アプローチにしても,後にみるように1970年代にはすでに「リハビリテーション心理学」という学問の枠組ができはじめていたということができる.
ともあれ,リハビリテーション医学にとって心理学が極めて重要な部門であることはいうまでもないが,特に日本においてはそれはまだ非常に弱く,十分に成熟した構成部分になっているとは到底いえないことも否定しがたいと思われる.
そのような状況の中での今回の講座であるが,その導入部として,まずリハビリテーションにおける心理学の研究の歴史をふりかえってみることからはじめたい.
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