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はじめに
心筋梗塞をはじめとする冠動脈疾患にとって,その発生を助長するとおもわれるいくつかの因子が存在することは比較的古くから知られている1~5).これらの因子は冠動脈疾患危険因子,またはリスク因子(risk factors)と呼ばれ,表1にかかげたようなものがその主なものとしてあげられる.これらのものは相互に深い関連をもち,ある特定のものがとくに単独で重要な意味をもつというわけではなく,総合効果として冠動脈硬化を助長するものと考えられる.ただ,この中でとりわけ日常生活のもち方としてわれわれ自身の意志でコントロールできるものとしては,食事と運動がある.本稿では,運動が他の諸因子に対して及ぼす影響について,関連する文献を引用しながら解説を試みることにする.
個々の項目について述べる前に,全体としての運動の身体機能に及ぼす効果を眺めてみると,このことについてはすでに古代史の中にも見出されており,たとえばCicero(106-43 B.C. )は“運動と節制は,たとえ老年になってもわれわれの若い頃の強さのうちの幾分たりとも保つ”のに役立つとのべている.また,Richard Steele(1672-1729)の“読書は心に,運動は体に”という言葉は広く人々に知られている.
近年では,アイゼンハウアー大統領の心筋梗塞を早期からのリハビリテーション訓練によって見事ホワイトハウスにカムバックさせるまでに治癒せしめたことで有名な,世界的な循環器病の大御所の一人である“take it easy”とは決して言わず,“take it hard”と言い,働くことの重要性を強調していたという.彼の有名な言葉の一つに“人間は労働することによって更に一層の健康感を味わう”というのがある.
事実,身体運動を主とする職業従事者と,坐業のみの職業従事者とを比較すると,前者において明らかに冠動脈疾患の発生率が低いことがみとめられている.従って身体全体として眺めた場合には,冠動脈疾患予防のための運動訓練の意義は大きいことは確かである.そこで前述したように,個々のリスク因子に対して身体運動が果たしてどのように作用するのかについて眺めてみることにしよう.
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