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はじめに
起立歩行を行なう人間には重力に抗して生体の恒常性を保つためのいろいろの調節機構を有している.そのなかでいかなる体位でも脳への十分なる血液供給をする複雑な循環調節機構があり,その障害時にめまいから失神に至るまでの種々な程度の危険な症状が現われてくる.これを起立性低血圧(postural or orthostatic hypotension)と呼んでいる.これには既知の疾患の経過中に起こる症候性起立性低血圧(symptomatic or secondary orthostatic hypotension)と,特に明瞭な原因が明らかでない原発性起立性低血圧(idiopathic or primary orthosatic hypotension)がある.通常頸損と呼ばれる高位脊髄損傷者にみる起立性低血圧は前者に属し,ADL上,下位脊髄損傷者ときわめて異なる症状の一つである.
この低血圧「発作」は頸損者に終始つきまとうやっかいな現象で,陳旧性に至ってもしばしば見られるが,体位を水平にしさえすれば後遺症も残さずに元の状態に戻ってしまうことで余り心配もされなく,またそれを防ぐ簡単な方法で日常対処されている.この起立性低血圧症は第5またば第6胸髄神経節以上の損傷でみられるが,その節以下から分岐していて,大量の循環血液量を調節する役目を担っている内臓神経splanchnic nerveが切断されたためとされている1~3).
そこで私共のセソターに入院中の主に陳旧性の完全頸損者を対象に,ごく日常の臨床検査手技を用いて,身近で起こっている自律神経失調症の諸変化,ことに起立性低血圧に関する諸検査を行ない,併せて臨床的見地から腹帯の効果について調べてみた.
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