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Ⅰ.はじめに
中枢神経系(以下CNSと略す)の発達,特に運動発達に関しては,「Die Ontogenesis ist eine kurze schnelle Rekapitulation der Phylogenesis,個体発生は系統発生の短期再演である」(Ernst Haeckel)という名句がよくあてはまる1).これは,ある動物の幼若な個体の状態から完成した個体になるまでの発育経過を意味するOntogenia個体発生の中では,現在の状態に到達するまでに経てきた,その個体の属するspecies種の進化発達の過程を意味するPhylogenia系統発生(宗族発生)が再現されているということで,例えば人間の子供の移動の発達をみても,はじめは寝返り,次いで腹這い,そして四つ這いを経てつかまり立ち,伝い歩き,2足による独歩へと発達する過程を考えても分る.このような考え方が基本になければ,最近の脳性麻痺(以下CPと略す)の早期発見,症状の把握,治療(訓練)の理論付けが難しい.しかし,同じ視床猿と視床犬又は猫では,より高等な猿の方が歩行については劣るというFultonの実験から分るように,高等な動物ほど脳の障害で,運動動作は下等動物のそれとは比較にならないほどの影響をうけるであろうし2),系統発生的な進化の間に,下位の機能がより高位のレベルに移って行くという推定がなされるように3),個体発生が単なる系統発生のくり返しにすぎないということでは決してない.creep腹這いする赤ん坊は,腕は使うが下肢はそれほど使わなく,後になってcrawl四つ這いする時は,爬虫類のようには腹をひきずらないといった風に,人間の運動発達は系統発生的パターンとは完全には一致しない4).ここでは小児の運動制御機構の発達の神経学的なメカニズムについて,主に機能面に重点をおいて述べたいと思うが,人間の発生学については,動物実験―系統発生に関する観察が可能―と,新生児期以後の赤ん坊の発達課程の綿密なる観察―系統発生以外に個体発生に関する観察が可能―が主体をなしていて,子宮内に位置していて,母体の循環に依存している胎児についての資料が乏しいのは止むをえないことであろう.
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