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はじめに
大腿骨頸部骨折は片麻痺患者に発生しやすい最も重大な疾患の1つである.本骨折の合併は単に機能上の障害を増強させるだけでなく,生命の予後にも関係する可能性があり,本疾患のリハビリテーションの実施に際しては常にその発生の可能性に留意し,これを予防する努力が大切である.
周知のように本骨折は,老人,特に女性に多く,老人性ならびに閉経後のオステオポローゼ,あるいは潜在性の骨軟化症6)による骨の脆弱化を基盤とするもので,したがってきわめて軽微な外傷によっても容易に発生し得る.特に内側骨頭下骨折は,明らかな外傷がなくても,オステオポローゼに加わった疲労骨折の形で生じ得るとされている5).
片麻痺の患者はそのほとんどが老齢であり,その病像の中心である半身の運動障害に加えて知覚障害,精神障害,失行,失認などの存在のためにベッドからの転落,歩行時の転倒,その他の軽微外傷を受ける機会が当然多い.さらに麻痺側半身には健側に比してオステオポローゼがより高度に見られることも知られており,本骨折を生ずる条件を十分以上に備えていることは容易に推定される.事実,片麻痺の合併は本骨折患者の6.5%10)から多いものでは17%9)に認められると報告されており,しかも骨折は麻痺側に生ずる率が高い.
本稿においては,片麻痺に合併した大腿骨頸部骨折を取り扱う際の問題点と,特に評価を要すると思われる身体的,技術的諸条件を整理し,これに基づく治療法選択の方向づけを試みた.しかし,片麻痺の合併は本骨折の治療の方向を大きく変えるというものではなく,単に治療の困難性に一層の悪条件を加えるに過ぎないから,以下の論述ではむしろ,本骨折治療にかかわる一般論的な諸問題に対処する際に,特に考慮を要する部分的な状況として取り扱わざるを得なかったことを初めにお断りしておきたい.
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