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かつて,勝木司馬之助教授の“Strokeにはだれが取り組むべきか”という論説を感銘深く読んだことがある.勝木教授は1970年にjournalとして“Stroke”が発刊された際に,その巻頭にClark Millikanが寄せた論文に共鳴されて,この素晴らしい一文をつづられたという.そこには,脳卒中は神経内科医のみがこれと取り組んでも解決されうる問題ではなく,これに関連する種々な分野の専門家がお互いに協力し,それぞれの知識を傾注して立ち向うべきことが強調されている.そしてMillikanの論文から「本症の予防,診断,その他の実際面についてはきわめて多方面の領域,専門家の協力があってはじめて成果をあげうるものであって,一人の脳卒中患者の本当のwork upをするためには少なくとも48種に及ぶ専門の医師またはパラメディカルの人々の協力が必要である」という引用をなされている.5年前のこの勝木教授の提言は,今日こそ脳卒中の診療にたずさわるすべての人々に銘記されねばならない.さて脳卒中の治療面でリハビリテーションが重要なことはいうまでもないが,この領域にも医師,パラメディカルの方々を含めて多くの専門職があることはあまり知られていない.リハビリテーションというと一般の人々には,今だにマッサージ,温泉療法のイメージが強いし,医師ですら低周波療法やハーバード・タンクの認識位しか持っていないこともある.今日のリハビリテーション医学は,単なる後遺症の理学的療法からは飛躍的な発展をとげている.脳卒中のリハビリテーションは,発作早期よりはじまり,可能なかぎり人間として再び幸せに生活できるところまで治療,指導することを目的としている.この度,医学書院から出版された三島博信博士の筆になる「脳卒中片麻痺とリハビリテーション」は,今日における脳卒中のリハビリテーションを,御自身の体験をも盛りこんで,平易に解説した好著である.まずリハビリテーションとは何か,リハビリテーション・チームの解説から始まり,脳卒中および後遺症の説明も加えている.さらに発作当初よリリハビリテーションをどうすすめるべきか,リハビリテーション・センターではどのようなことが行なわれているかを詳細に述べている.とくに理学療法,作業療法,言語治療は専門家以外には現実面での知識が少ないので,本書を読んで私も学ぶところが多かったし,実地医にとって益するところが大であると思う.またこの領域におけるメディカル・ソーシャル・ワーカーや看護婦の仕事にも及んでいることは本書の特色となろう.最後に著者の最も得意とされる片麻痺の整形外科的手術を付記されている.このように本書は実地医,医学生,看護婦,保健婦にとって新しい脳卒中のリハビリテーションを理解する絶好の手引である.三島博士は札幌医科大学を卒業され,整形外科学を身につけてから,リハビリテーション医学を専攻されている.私が三島博士と親しくさせていただいたのは,約10年前であり,おそらくリハビリテーション医学に専念され始めた頃であろうが,その向学の熱意に打たれたことを思い出す.その後,風光明媚な洞爺湖畔にある先生の病院を訪れ,立派なリハビリテーション・チームを作って,治療効果をあげておられるところを見学させていただいたことがある.三島博士がこのように立派な著書を出版されたのは,長年の努力研鑽の賜物と,ここに深く敬意を表したい.わが国における脳卒中の診療体制は他疾患に比較して著しく立ち遅れているが,最近ようやく活発化の兆が見られるようになった.脳卒中急性期の診療が近代化する程,死亡者が減り,リハビリテーションが重視されてくるのは当然である.
今後の医学の重要な傾向に対応すべく,本書が広く医療関係者に読まれることを熱望している.
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