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ここ数年来,厚生省の企画の下に,全国の保健所あるいは市町村関係の保健婦を対象とし,成人病対策の一環として,脳卒中の予防からリハビリテーションにわたる研修会が催され,われわれの病院も東京で講義を了えた彼女達を迎えて,さらに理学療法,作業療法,日常生活動作訓練などについての講義と実習を受持ってきた.僅か10日内外の研修会でどれだけ実のあるものとなるかはしばらく措くとして,彼女達の真摯な学習態度からうかがえることは,都道府県市町村から制限された人数の中で参加できたことと,それぞれの持揚に帰って伝達講習をするというようなこともあって,密度の差こそあれ,彼女達もいやおうなしに老人医療のチームの一員としての立場を要求されているということである.この研修会の最終日に2時間程度の総合討論の場が持たれているのであるが,毎回必ず同じような声が聞かれるのは,ある面では当然ともいえようが,他面いつも同じような不満や悩みが彼女達の口から出るということは,老人医療(のみではもちろんないが)に取り組むチームワークとしての進展が余りないということを反映しているのではないかと考えられる.一番よく聞かされる問題点は,彼女達がこの研修を通じて得たなにがしかの知識を,実際面でどのように活かすことができるのかという,極言すれば原点に立ち戻っての問題提起であった.その具体的な内容のうちでも,最も多く聞かれるのは,患者の主治医とのcontactないしはcommunicationがpoorであるというか,いなむしろsmoothでないということであり,これは裏を返せば,主治医のリハビリテーションに対する無知(といってよい医師が沢山いることは本誌の読者ならば先刻ご承知のことだが)と無理解を如実に物語っていることは明らかである.
現行医療法規に照せば,主治医の理解のあるなしに拘わらず,彼女達がたとえよい意図の下であっても,独断的に手を下すことは許されないかもしれない.だからといって,目の前に寝たきりの脳卒中の患者をおいて,折角研修で得た知識を活かすことができないはがゆさと,ある種の背後の圧迫があることは容易に想像されるのである.現行医療法規をここで云々するつもりはないし,それはそれとして他の場にゆずるとしても,保健婦と主治医とのcommunicationがうまくとれさえすれば,彼女達の知識のもちぐされは容易に解消されよう.もって廻った言い方になってしまったが,要は主治医があえて脳卒中とは限らず,ひろくリハビリテーションサービスに対する知識,あるいはせめて理解を持っていればということである.
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