特集 重症心身障害者のリハビリテーション
<随想>
この子の立場になって
速水 真弓
pp.359
発行日 1975年5月10日
Published Date 1975/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552103328
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こんなむごいことってあるでしょうか.好きな人と一緒になり,2人だけの自由で楽しい生活から愛の証しのわが子の誕生.産まれ出るまでの期待と将来の夢を毎日のように語り合い,それまで気がつかなかった赤ちゃんの笑顔や親子づれに未来の自分達の姿を見ていたのでした.描いていた夢や希望は粉々になりました.産れた直後から赤ちゃんの唯一の生活力である哺乳力と泣き声がない……….今まで考えたこともない世界に踏みこんだのです.私は我儘で苦労なく過した20年間の見返りが,いっぺんに来たと思いました.
これはただごとでないという不安にいつもとらわれ,病院めぐりが始まったのです.気持を話し合える人は誰もいませんでした.昼も夜もかぼそく泣きつづけ,乳を飲まず,私はタンスに寄りかかって1日の大半を授乳に費やしながら子の顔の上に涙を落していました.唯,今でも不思議なのは,毛深い子を見て,どうしてこんな子が産れたのだろう? 産まなければよかったという気持が全然なかったということです.きっと親になるということはそういうことなのだと思いますが…….
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