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小生の医学部の頃といっても,もう早いもので15年以上も前のことであるが,当時のノートをめくってみても「装具」あるいは「義肢」に関する講義はまったく受けなかったようである.整形外科教室に入門してからも,先輩から特にこのことに関しては指導らしい指導も受けなかったといえばおこられるだろうか.その上この方面の入門書というか教科書的な書物もまったくなかったと記憶する.だからこそ,昭和40年に小生がニューヨーク大学のリハビリテーション科ヘレジデントとして初めて足をふみいれた時,このことに関する限りまったく未知の世界の感があった.今で思えば至極当然のことではあるが,アメリカではすでに当時から「装具」あるいは「義肢」が立派な1つの体系づけられた学問として存在し,科学的に(経験的ではなく)処方され,またそのようにチェックされ教科書の種類も豊富にあった.当時をふりかえってみると「10年ひと昔」とはよくいったもので,本邦もこの方面に関する限り最近とくに急速に進展してきたように思われる.当時は皆無に近かったこの方面の書物も今では種類も豊富であり,かつ内容も比較的充実したものになっている.しかももっとも嬉しいことは,当時よりより多くのこの方面の読者が増えている事実である.さて前おきはこれ位にして,今日小生があえてここに紹介するこの一冊のマニュアルであるが,やはりいくら本邦の書物も種類・内容とも充実してきたとはいえ,このマニュアルを見てもらうと小生のいわんとする意味がおわかりいただけるとも思うが,内容の豊富さとまったく親切なまでにいきとどいた説明はありがたく便利である.
章は第1章から7章までにわかれていて,先ず第1章と第2章がExternal & Internatnal Shoes Modificationsで一冊の大体四分の一をいわゆる「靴学」に頁をさいている.第3章がFoot and Ankle Orthotic Devices,第4章がB-K,第5章がA-K Orthoses,第6章がKnee Orthoses,最後の章がHipと順序よく遠位から近位へと整然と能率的に書き上げられている.各々の章の冒頭にはそれぞれの章の細目次がかかげてあり,これも本邦の書物にはない親切さが楽しい.また第一絵が豊富で,絵を見ているだけで楽しいし,容易に頭の中にとびこんで来るような気がする.同じ著者の先に出版されたUpper Extremities Orthoticsに比べると,Functional Anatomyのないのが淋しいが,これはいくらも他のその方面の専門書をひもとけばいいし,またこのマニェアルを読もうというほどの方々なら最低知っているべき知識ではあるのでこれはこれでいいと思う.とにかく最初の2章だけでも本邦の装具製作技術者の方々に見てもらえばきっと得るところ大と確信する.それほど本邦の「靴」の出来はわるいと思っているのは小生だけだろうか.またこの書のもうひとつの特徴は,随所にMeasurement Sheetのサンプルが示されているので,これらのSheetだけとりあげてみていても,いろいろ知らされることが多いものである.
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