Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「DX(ディスレクシア)な日々~美んちゃんの場合」―「誰もが生きやすい社会」をつくる思想と行動
二通 諭
1
1札幌学院大学人文学部人間科学科
pp.1143
発行日 2012年8月10日
Published Date 2012/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552102640
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学習障害の一タイプである「ディスレクシア」の由来は,ギリシャ語の「dys」(できない)と「lexia」(読む)であり,その意とするところは,読み書き障害,あるいは,読み書きの顕著な困難ということになる.過去,ディスレクシアを有する人物を配した作品として,「パーフェクト・カップル」(1999)と「イン・ハー・シューズ」(2005)があったが,あえて「男はつらいよ」シリーズもその範疇に入れたい.毎度お馴染みの寅さん(渥美清)の葉書も当初は妹役の倍賞千恵子が左手で書いていたのであり,ハンディのある人物として設定されていたことは明らかだ.勉強が苦手で中学校も卒業せずにやくざ稼業の道を選んだ寅さんだが,書字の状態からすれば,その正体はディスレクシアだったのではないか.ちなみに,井上ひさしは寅さんを「言葉の天才」と評している.寅さんもまたディスレクシアの人にしばしばみられるちょっとした才能の持ち主ということになろうか.
さて,美んちゃんこと砂長宏子さんを被写体とするドキュメンタリー「DX(ディスレクシア)な日々~美んちゃんの場合」(監督/谷光章)は,ディスレクシア女性の抱える困難と職業的自立のプロセスを描いたものだ.「また仕事がなくなった,何度目の失業だろう」という切ないナレーションから始まる.なぜ失業を繰り返すのか.原因はミスの多さだ.書類がからむ仕事だと,行を間違えたり,数字の並び順を間違えたりする.
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