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30数年の臨床経験を経て,縁あって数年前より理学療法士(以下,PTと略)教育に携わり,現在,義肢装具学の科目を担当している.臨床では,切断や脳卒中の対象者と深く関わることで多くの知識を学び,貴重な経験を積むことができた.また,義肢・装具を上手に活用することで機能や能力が大きく変化していく様を現実的に何度となく経験するにつけ,治療手段としての義肢・装具の位置づけとその重要性を強く認識させられる毎日であった.さらに,義肢・装具の構造やメカニズムにも精通していなければ,十分にこれらを生かして目的とする機能や能力を引き出すことができないことも学び,同時に義肢装具士とのチームワークの大切さを実体験として肌で感じることができた.このように義肢・装具がもたらす計り知ることのできない影響力やその魅力を学生にも何とか伝えることができればとの思いがこの道を選んだ理由の一つになっている.
理学療法は機能障害が能力障害へと至る過程において,科学的根拠に基づく治療介入や標準化されたクリニカルパスの導入などによる効率的・効果的手段を駆使して,これらの軽減あるいは改善に努め,できる限り対象者のQOLを高めていくことがその本質であると認識している.昨今のリハビリテーションの流れは,急性期,回復期,維持期と病状の時期に応じて機能的分化を行い,病期ごとに必要となるリハビリテーションサービスを提供する仕組みへと整備されている.急性期・回復期リハビリテーションでは限られた在院日数のなかで,対象者の長期的予後予測のもとに生活機能獲得を目標とする早期理学療法の介入や実用的な移乗能力と安全な移動能力の獲得を目指した理学療法が求められている.特に歩行は身の回り動作と密接にリンクしており,歩行の獲得がQOL向上の要となっている.そのためにPTは,目標達成のために必要なツールとして義肢・装具を捉え,早期から積極的に活用すべきであると考えている.あるPTとの話で40名以上もPTがいる総合病院から一度も歩行練習をせずに転院してきた脳血管障害者が,転院当日に短下肢装具と4点杖で40m程歩行ができ,患者から驚くほど感謝されたことを聞かされたことがある.装具をもっと早くに活用していれば,とっくに歩行ができていたにもかかわらず,当たり前のことが適確に行えていない,あるいは義肢・装具のチェックアウトや歩行練習さえも十分に指導できないPTの存在に対して何をか言わんやの思いであった.
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